INFOLATION

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やれたかもしれないあの夜について語ろう

 

cakes.mu

 

 

 真冬の深夜二時。京都御所は白色に包まれます。

 十八歳の僕は京都の大学に入学しました。

 入学すれば、すぐにサークルの新歓が始まります。新入生歓迎会です。この時期で、新入生はチヤホヤされて勘ちがいしてしまうのです。僕もその一人でした。可愛らしい私服を着た女性の先輩やかっこいいジャケットを羽織った茶髪ふわっとヘアーの男性の先輩に手を掴まれて、話を聞かされます。「是非君に入ってほしいんだ」などと言われるとまるで自分が特別な人物になれたような気がしました。

 僕が最も心惹かれたのは運動サークルでした。活動内容は、適当に集まってスポーツをするというものです。運動サークルと聞けば、リア充サークルをイメージされるかもしれませんが、先輩達からそのようなイメージは受け取ることができませんでした。むしろ、緩くて来たい時だけ来たらいいよぐらいのノリでした。まぁ、リア充すぎず、陰キャすぎず、ここにしようかなと思いました。いや、そんな理由ではありません。僕に説明をしていた男の先輩の後ろにいた女性のことが気になったのです。その時点で好きだったかは分かりません。ただ、後ろで一つに結ばれた黒髪がサラリと流れていました。それは綺麗だなと思いました。

 入会してから知ったのですが、黒髪の先輩は3回生で僕の2つ上でした。

 それから僕は上手くやれていたと思います。会話する相手に困ったことはありませんでした。実際イメージ通りサークルの雰囲気も緩かったので僕に合っていました。僕は中学から高校三年生まで野球をやっていたので、野球をサークルでやるときは活躍することができました。黒髪の先輩は、僕が打つたびに拍手をしてくれました。 

 

 十二月が終わりました。

 一月になれば、時々京都に雪が降ります。

 その日は大雪でした。大学の授業が終わっても、暇な大学生は積もった雪で雪だるまを作ったりしていました。僕たちはそれを眺めていました。同回生と「なんであんな無意味な事をするんだろうね」なんて話していました。すると、突然LINEの通知が鳴りました。

 『雪合戦をしよう』

 珍しい大雪にテンションが上がった僕たちは、京都御所で雪合戦をしました。正直、どうしてこんな寒い日に冷たいものをぶつけ合うんだろうと思って、なかなかやる気にはなりませんでした。でも、同じようなことを考える人は多くいるようで、広く広く何もない京都御所には大勢の大学生がいました。

 それから、下宿している男の先輩の家で飲み会が開かれました。

 先輩の部屋にはギターが置いてありました。尋ねてみると軽音サークルにも入っているらしいです。

 途中で帰ってしまった人もいたので、結局飲み会はその先輩と黒髪の先輩と僕と同回生の女の子の四人でした。

 みんなで梅酒を飲んでいました。紙パックの梅酒を炭酸水で割りながら飲んでいたはずです。

 結構酔っ払いました。

 時計の針は十二時を超えています。当然のように全員が終電を逃しています。ただ、黒髪の先輩も下宿ですから、ここから自転車で帰れるはずです。

 それなのになかなか帰りません。ここで徹夜するのかなと思っていました。

 そんなこと考えながら、みんなで笑っていました。何を話したかは全く覚えていませんが、みんなで笑っていた事だけは確かです。

 そのうち、同回生の女の子が寝ました。無防備すぎるんじゃないかなと僕は思いました。すると、男の先輩は、「風邪引いちゃうから」と掛け布団をかけてあげていました。

 それからは小声で三人で喋りました。不思議な事に、小声で喋っていると急に眠気が襲いかかります。僕はとても眠たかったです。ですが、ここで寝ると黒髪の先輩と喋れなくなってしまいます。黒髪の先輩となかなか喋る機会に恵まれなかった僕は、ここでいっぱい喋りたかったんです。

 「ごめん、俺寝るわ」

 男の先輩が寝ました。僕は急に緊張してきました。何をしゃべればいいんだろう。あれ、これってもしかして……色々なことをやれるのではとか考えました。でも少し前まで高校生だった僕には早すぎました。なにもかもが。

 「ねぇ、何しゃべろっか」

 「好きな曲とかありますか」

 そう言いながら僕はパソコンでyoutubeを開いた。

 「back numberとかよく聴くよ」

 バックナンバー。大学生なら全員聴いてるバンドだ。

 「クリスマスソングとかいいですよね」

 「あぁ~。私は花束のほうが好きだな」

 youtubeで花束を流しました。

 先輩はリズムに合わせて頭を揺らしていました。もう少し揺れが大きくなれば僕の肩に頭が当たりそうでした。酔いが回っているのか、揺れが段々と大きくなります。

 先輩は僕の肩に頭を置いたんです。そしてこう僕の右耳に囁いたんです。

 「ねぇ。外にでよっか」

 僕たちは外に出ました。まだ誰にも踏まれていない雪が道路に積もっていました。歩きだすと足がズボリとハマります。歩きにくそうにしていると、先輩が「ははは」と口に手を当てて笑っていました。それをみて僕も笑いました。

 先輩は斜め前を指差しました。「もう一回雪合戦しよ」

 

 京都御所は真っ白でした。全く汚れていない雪は、まるで絵具でべったりと塗りつぶしたようでした。そこで僕たちは雪を投げ合いました。先輩の黒髪に雪が交じっていました。僕がそれを指摘すると先輩は「取って」といいながら頭をこちらに向けるので手で取りました。先輩の髪の毛はサラリとしていました。「ありがとう」と言われました。

 「濡れちゃったね」

 僕たちは解けた雪でびしょびしょでした。このまま家に帰ってしまうと男の先輩に迷惑をかけてしまいます。

 どうしようと悩んでいると先輩が答えを出しました。

 「シャワーを浴びて着替えよう」

 僕は、勧誘を表す『よう』は、(一緒に)ということを勧誘しているのかただ単に(シャワーを浴びる)ことを勧誘しているのか分かりませんでした。ただ、臆病な僕は、黙ったまま頷きました。そもそも着替えなんてどこにあるんだろうと思いました。僕は持ってきていませんでしたから。

   できるだけ部屋が濡れないように、玄関から最短距離でつま先歩きで風呂場まで行きました。

 先輩はシャワーを浴びていました。部屋で待つ僕は、シャワーの音をじっと聴いていました。放っておいたyoutubeは色々な曲を経て、back numberのわたがしを流していました。

 ガチャリと音がして、先輩が出てきました。なぜかパジャマ姿でした。

 僕が不思議に思っていると、

 「私、ここにパジャマ置いているんだよね」

 「あれ、言ってなかったっけ。私たち付き合っているんだよ。あ、○○くんは彼のパジャマ使っていいよ。そこにあるから」

 

 僕は、シャワーを浴びて、男の先輩の服を着ました。少しだけ大きくて、子供みたいでした。

 youtubeは閉じられていました。

 「少し眠たくなってきたね」

 先輩が言いました。

 「そうですね」

 僕が言いました。

 先輩が、僕の右肩に頭を乗せました。

 「彼の匂いがする」

 僕はあぐらをかいていました。

 「膝枕してくれない?」

 「いいですよ」

 先輩は横になり僕の脚に頭を乗せます。

 「ごめんね」

 「どうして謝るんですか」

 「最近うまくいってなくて」

 「はい」

 「ごめんね」

 「どうして謝るんですか」

 返事はなかったんです。気になって下を見たら、先輩は目をつぶっていました。

 僕は髪を撫でました。

 憧れつづけた髪を撫でました。ずっとずっと撫でていただけでした。

 

 

 

 気づいたら朝日が出ていました。その時には既に僕以外は、みんな起きていました。

 八時半。あと三十分で一限が始まります。

 僕たちは、別れと感謝の言葉もほどほどに家を出ました。

 もう雪は色々な人に踏まれてしまっていて、茶色が混じっていました。

 

 

 結局、それから黒髪の先輩とは特に何もありませんでした。男の先輩と別れたという噂も聞きませんでした。

 僕は、サークルを卒業するまでに、同回生の女の子と付き合いました。その子は短い茶髪でした。